古本屋をめぐっていると『美味求真』なる本と出合った。
赤い函(はこ)に収められた立派な装丁で、著者は木下謙次郎氏。
貴族院議員や衆議院議員をつとめた人物で、
この本には、調理法は勿論のこと、
魚の旬の捉え方や日本各地の郷土料理などが書かれている。
ちょっと面白いのは、そんな美食にとどまらず、
昆虫食や人肉食についても書かれていた。
政治家で美食家と言えば、フランスのブリア・サヴァランの名がすぐに挙がる。
1825年に彼が著した『美味礼賛』が有名。
いまでもフランス料理の真髄として知られている。
そのサヴァランに遡ること32年。
中国・清の時代の官僚だった袁 枚(えん ばい) もそれに匹敵する人物。
彼が著した食に関する本に『随園食単』というのがある。
著した時は、すでに官僚ではなく、南京の西にある廃園を手に入れ、
そこを『随園』と名付け、気侭な隠遁生活をして過ごしたようだ。
様々な調理法やその理論などがその本に書かれている。
この本は、まず序文があり、続いて「予備知識」「警戒事項」があり、
そのあと、様々な料理法へとつながっている。
「予備知識」の中では、「取り合わせを知ること」などが出てくるが、
興味深いのは、「警戒事項」。
その中の幾つかの項目を挙げてみると、
まず、「目食を戒む」とある。
目をもって食べるな、という意味だが、
量や品数、良く知られている名の料理など目で魅かれてはいけない
米蘭旅遊。
「穿鑿(せんさく)を戒む」とある。
字は難しいが、余計な小細工をするな、ということ。
「材料の浪費を戒む」は、読んで字のごとし、ムダは慎むこと
能恩。
また、
「耳餐(じさん)を戒む」とある。その如く読むと、
「耳で食べさせるな」という事になるが、言わんとするところは、
耳打ちするように「これは、◯◯産の△△」などと言ったりするが、
そんなものに惑わされずに
味の本質をつかむようにせよ、ということらしい。
いつも、このような姿勢で料理に向かっていれば、
昨今、話題となっている食品偽装は、起こりようもないことかもしれない。